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2024.01.22

コラム

歯周病と全身の健康との関係について Part4

歯周病 3

こんにちは。山梨県南都留郡富士河口湖町の歯医者、井ビシ歯科医院(いびし)です。

“歯周病は万病のもと”とも言われておりますが、今回も、歯周病の影響が及ぼす疾患について説明していきます。

歯周病を引き起こすのは、「歯周病菌」と言われる数百種類もの細菌群です。この細菌たちは、口の中で留まるだけでなく、さまざまなキッカケによって、血管から入り込み全身へ循環したり、気管を通じて肺へ行き、肺の炎症の元になったりします。

そして全身の疾患にも大きく関連していることから、健康のためには歯周病対策は必須であることは周知の事実です。

今回のコラムは、このシリーズ最終回です。歯周病と関連する様々な疾病(肺炎、早産・低体重時出産、骨粗鬆症)について説明していきます。

目次

1.歯周病と肺炎とくに誤嚥性肺炎について

2.歯周病と早産・低体重時出産について

3.歯周病と骨粗鬆症について

歯周病と肺炎とくに誤嚥性肺炎について

肺炎 写真

肺炎は日本における死因の第3位です。中でも、誤嚥性肺炎と言って、食べカスなどから繁殖した口腔内の細菌を、知らぬうちに気道を経由して、肺に吸い込んでしまうことなどによる肺炎が増加しております。

肺炎による死亡の90%以上は、65歳以上の高齢者で占められ、かつ高齢になるほどその死亡率は高くなります。
高齢者の肺炎の重症化・死亡の原因には、心不全、肺疾恵、腎不全、糖尿病などの基礎疾患の存在と共に繰り返す誤嚥が挙げられます。

肺炎 ウイルス

誤感性肺炎を起こした患者の肺からジンジバリス菌、ヌクレアタム菌などの歯周病菌が高い頻度で検出されます。肺炎の原因菌と共に肺に入ったこれらの細菌の産生するプロテアーゼ(タンパク質・ペプチド分解酵素)により呼吸器上皮破壊や炎症が進み、そこから発生したサイトカインにより症状はさらに悪化してしまいます。普段は不顕性誤感を繰り返して肺炎にはならない人でも、全身状態の悪化や消耗性疾患のある時、風邪や気管支炎などの呼吸器感染をおこした時、肺炎を発症してしまいます。

とある研究では、在宅療養高齢者98名に対して施設職員の日常的口腔ケアに加えて、歯科衛生士による口腔清掃を中心とした器械的口腔ケアと集団的口腔衛生指導を週1回実施したところ、口腔ケアを受けた群では対象群(口腔ケアを受けていない群)に比べ、唾液中の総細菌数が有意に減少し、インフルエンザの発症が1/10まで抑えられたと報告されております。

歯周病と早産・低体重時出産について

妊婦

日本産婦人科学会誌にも、妊婦健診の場での早産予防策の一つとして「歯周病と早産の関連も注目されており、口腔内の健康を維持することも大切である」と記されております。さらには切迫早産、早産の原因の一つに歯周病(歯周病があると約7倍の早産のリスクがある)と明記され、産婦人科においても「歯周病」と「早産」の関連性についての明確となっております。

歯周病が進行して歯肉の炎症が強くなると、歯周組織中のプロスタグランディンE2(陣痛促進剤として使用される)が増えること、またインターロイキン1βなどのサイトカインが血液中に多く排出されることがわかっております。妊婦の体内では、血中サイトカイン濃度が高まると、出産のゴーサインとみなされ、妊婦の子宮筋を収縮させるスイッチが入ると考えられます。妊婦が歯周病の場合、正期産以前(妊娠 37週未満)に血中サイトカイン濃度が高まるため、子宮筋を収縮させるスイッチが間違って入ってしまい、十分に成長していない状態での早産につながるとされています。ある研究によると、正常妊娠の 48人と、37週末満に分娩兆候の見られる切迫早産の状態にあった妊婦 40人を対象に出産状況を調べたところ、正常妊娠・正期産の人に比べ、切迫早産で早産・低体重児を生んだ妊婦の歯周病菌数は約4.5倍、血清中のサイトカイン量は14倍多かったと報告されました。

アメリカの研究でも、中等度以上の歯周病のある母親は、歯周病のない母親より早期低体重児出産に対し約7.5倍以上の危険率があり、その中でも初産の人では7.9倍の危険率があることが示された。
歯周病は早産に対しては4.28倍、低体重児出産に対しては2.30倍、早期低体重児出産に対しては 5.28倍の危険率であることが明らかになった。
成長していない状態での早産につながるとされます。

また Lopezらは、870名の妊婦を対象に、妊娠中に歯周病治療を行ったグループ (553名)と行わなかったグループ(281名)の早産、低体重児出産、早期低体重児出産の発言率の比較を行いました。その結果、歯周病治療を行ったグループは、早産 5.65%→1.42%低体重児出産 1.15%→0.71%早期低体重児出産
6.71%→2.14%と減少したことが示されました。よって歯周病治療が妊娠中にも大変有効であることがわかります。

歯周病と骨粗鬆症について

骨粗鬆症

現在日本では、約1千万人が罹患しており、女性が全体の7割を占め、特に閉経後の女性に多く見られているのが骨粗鬆症です。

腰が曲がり、身長が縮むといった軽度症状から、重症になると転倒などによる骨折がみられる。歯周病によって炎症性サイトカインが増えると、骨吸収が促進され骨の縮を引き起こすと考えられており、今後も研究によってメカニズムも明らかになっていくでしょう。

歯周病と全身の健康との関係について Part1はこちら

歯周病と全身の健康との関係について Part2はこちら

歯周病と全身の健康との関係について Part3はこちら

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この記事を書いた人

井ビシ歯科医院

井出 太一

日本歯科大学生命歯学部を卒業、現在は井ビシ歯科医院に務める。

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