2023.08.08
コラム唾液のチカラ
こんにちは。山梨県南都留郡富士河口湖町の歯医者、井ビシ歯科医院(いびし)です。
新型コロナウイルス感染症が、第5類へ移行され、マスクを外して生活する日常が戻りつつあります。しかし、マスク生活が長引き、口呼吸が促進され、結果口腔乾燥になってしまう方が多くいらっしゃいます。
口の乾燥はむし歯や歯周病、口臭のリスクにも繋がります。今回は唾液についてお話しします。
目次
2.唾液の役割
もしも唾液がなかったら
あなたの口の中から唾液がなくなってしまったときのことを、想像してみてください。カラカラに乾燥し、のどがひどく乾いて、咳が止まらなくなるでしょう。食事をするのも難しくなるし、しゃべることも困難になります。乾燥した口の中は、ヒリヒリと痛くなることも。
唾液は私たちの健康になくてはならない大切なものなのです。
そもそも唾液とは
唾液とは、口の中の耳下腺・顎下線・舌下線などの大唾液腺や、唇・口蓋・舌下などの小唾液腺から分泌される液体のことをいいます。
無色・無味・無臭で、大部分は水分です。ムチンやでんぷん分解酵素などが含まれています。
唾液の役割
唾液は私たちが健やかでいるために、とても大切な働きを担っています。改めて唾液が持つ役割を見ていきましょう。
健康のため
口の中の健康を保つ役割①「湿潤・潤滑」
唾液は口の中を潤します。もしも唾液がなかったら、しゃべったり、食べたりするときに、硬い歯と柔らかい粘膜がこすれて、傷ついてしまいます。
口の中の健康を保つ役割②「洗浄・自浄」
唾液は口の中を洗い流します。もしも唾液がなかったら、口の中に食べカスが残り、虫歯や口臭の大きな原因をつくってしまいます。
口の中の健康を保つ役割③「再石灰化」
唾液の中には、歯の成分であるカルシウムやリンが含まれており、食後しばらくすると酸を中和し、唾液中のカルシウムやリンが歯の表面に付着して、溶け出したエナメル質を補います。
また、歯を強くする「スタテリン」というたんぱく質も含まれており、徐々に歯にしみこんでいくことで歯をかたくします。
口の中の健康を保つ役割④「口の中の pH を一定に保つ」
飲食後は口の中が酸性に傾きがちです。酸性の状態が長時間続くと、歯が溶けてムシ歯になりますが、唾液のもつ緩衝作用によって、口の中をいち早く中性に戻すことで、歯が溶けて、虫歯になるのを防ぎます。
口の中の健康を保つ役割⑤「生体防衛」
人体で外に開いている部分(ロ、目、鼻など)には、外から浸入してくる細菌などを防ぐ役割をしている生体防御機能がはたらいています。唾液に含まれるリゾチームは、その役割をするもののひとつで抗菌作用を持った酵素です。
リゾチームは唾液だけでなく、涙や汗、リンパ腺、鼻粘液、肝臓、腸管など、生物体内に広く分布していて、色々な細菌感染から生体を守り、生命維持に欠かせないものです。また、唾液に含まれるムチンなどは、菌を凝集させ、菌塊とし、口内から排出するはたらきをしています。
食事のため
おいしい食事を助ける役割①「消化」
唾液の中には、消化酵素のアミラーゼが含まれています。アミラーゼは、糖質を分解し、体内に吸収しやすい状態にする酵素です。
おいしい食事を助ける役割②「洗浄・嚥下」
例えばごはんをずっと噛み続けていると、米と唾液が混ざり合い、おかゆのような状態になります。ごはんを丸飲みするのと、おかゆを丸飲みするのでは、当然、後者のほうがスムーズに飲み下すことができます。
おいしい食事を助ける役割③「味わうことを助ける」
唾液は食べ物を味わうためにも大きく作用します。
食べ物に含まれる味のもととなる物質は唾液の中に溶け込み、舌の「味蕾(みらい)」と呼ばれる味覚受容器に届けられることで、味を感じることができるからです。しかし、唾液がないと、潤滑作用がなくなって舌がこすれて味蕾がなくなったり、舌炎を起こして味蕾がはたらかなくなったりします。
また、味物質もきちんと味蕾に届かなくなります。つまり、唾液がなければ「味覚障害」に陥ってしまうのです。
ドライマウス症候群
「ドライマウス症候群(口腔乾燥症)」は、その名の通り「口の中が乾燥してしまう」症状です。
その程度は軽度から重度まで幅広く、軽度の場合、本人も気がつかないケースも多いと考えられます。
口腔乾燥は、以下のように分類されます。
口腔乾燥( Xerostomia)/ドライマウス(Dry mouth) | 分泌される唾液量の減少、唾液内成分の変化(粘調度の変化等) 原因不明の場合もある | |
日本語疾患名「口腔乾燥症/ドライマウス」 | 原因に関係なく口腔の乾燥状態(主観的/客観的)があり、何らかの苦痛・生活への不都合が生じている病態 | |
医学用語としての 使い分け | Thirst / Thirsty (口渇) | 口腔内の水分低下とは関係なく、喉がかわいて、水分がとりたくなる状態 |
Hyposalivation (唾液分泌低下) | 病歴と検査により示される唾液量の客観的な減少 | |
Salivary gland hypofunction (唾液腺機能低下) | 安静時または刺激時の唾液分泌流量で示される客観的な唾液分泌量の低下 | |
Salivary gland dysfunction (唾液腺機能障害) | 唾液分泌量の増加(機能亢進)もしくは減少(機能低下)による唾液の量や質の異常 |
ドライマウス症候群については、次回のコラムで詳しく説明します。
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